著作権法がネットビジネスの阻害要因になっている?
なんだか話題になっている「
「著作権は混迷」「ダメと言ってもネットは止まらない」──東大中山教授」(ITmedia)という記事。以前の「
知財法の権威、東大の中山信弘教授が最終講義」(ITpro)に比べても輪をかけて極論に走っているように見える。そして、見出しに書いた「著作権法がネットビジネスの阻害要因になっている」というのは、この記事にも出てくる言葉だけれど、本当だろうか。
まず、「ベルヌ条約の最新の改正がネットが普及するはるか以前」とあるけれど、情報技術の発展に対応すべく改正をしようにも批准国の全会一致が必要だから改正しにくかったということであって、そのために各国ごとに批准できる付属条約として
WIPO 著作権条約(著作権に関する世界知的所有権機関条約)が作られている。1996年に採択され、1998年のアメリカの DMCA や、1999年の日本の著作権法改正も、これに基づくものだ。知財の第一人者が知らないわけがないだろうから、わざと言わなかったか、記事が作為的に編集されたおそれもあるのだが。
また、興味深いのは、このあたりの表現だ。
例えば検索エンジンのキャッシュの扱い。日本の著作権法では現状、キャッシュは複製とみなされるため、著作者に無断でキャッシュを作成・蓄積する検索エンジンサーバは「著作権侵害の可能性が高い」。ヤフーやグーグルなどは、検索サーバを国外に置いている。
ナガブロさんのエントリ「
日本企業による海外における検索エンジン運営は違法か」では、そもそも海外にサーバーを置いたところで違法性に変わりはないと書いてあるのだが、一方で、黙示の承諾があるから有罪とされることはないだろうとも指摘されている。そして、これは何度も書いているのだけれど、エキサイトのキャッシュサーバーは
日本にある。いわゆる日の丸検索エンジンのために法改正の動きがあったというのは、お役所が「グレーゾーン」でやれないということであって、別に民間会社としてのイノベーションを阻害しているとまではいえないだろう。別に検索エンジンに限らない。著作財産権どころか、同一性保持権(人格権)でも問題視されそうなニコニコ動画だって、訴訟を踏み倒し続けている2ちゃんねるだって、運営が続いているじゃないか。それこそ訴訟リスクという点で考えたら、アメリカの方がずっと脅威である。
それだけじゃない。そもそも「日本の著作権法を逃れるために検索サーバーを国外に置いている」ということが成り立つならば、サーバーを海外においてサービスを始めれば済む話じゃないか。ほぼ国境のないインターネットの世界で「サーバーを日本に置かなければ起業できない」なんて、誰が言い出したのだ?(※まあ、大量にコンテンツ配信するなら効率のよい場所にある CDN を使う必要があるだろうけど)
「米国はMicrosoft、Apple、GoogleなどIT企業が一流企業となっているが、日本の一流企業の顔ぶれは変わらない。日本でもIT産業を興さないと将来はない」
docomo は IT企業じゃない? 楽天じゃ不足? ソフトバンクはどうなの? 米国に比べても GDP 比以上に音楽配信の市場規模を持ち、ネット上でのショッピングが盛んで、安くて速い回線を利用できている日本ってものを、そんなに卑下することはないと思うのだが。いや、まあ、起業精神が乏しいのは事実だろうけれど、それは IT に限らないのだし。
・・・とここまで書いて思ったが、記事中の「」以外の部分は中山教授ではなく、岡田記者の言葉だったりするのだろうか。
※2008.3.4追記。
なんか、的外れに理解しているような人がいるような気がするので補足。このエントリは「著作権法がネットビジネスの阻害要因になっている」ことに疑問を呈しているだけで、日本においてキャッシュサーバーが「完全に合法」だとは
言っていない。というか、「グレーゾーン」って書いているんだし。現実に問題視されないであろうという点はナガブロさんが書かれている「黙示の許諾」くらいだから、「国策」を進めるのに、その程度の曖昧さでは問題だということで法改正の話が出たんじゃないの?
たとえば、「他人の論文をコピーする行為」が著作権侵害だからって、じゃあ、他人の論文をコピーする行為を阻害している(中山教授はコピーしていない)のかということ。そもそも論文のコピーなんて、ネットが普及するはるか前のコピー機の時代からあった話でしょ。それが“阻害”要因なら、なんで今まで改正せずに済んできたの? まあ、そもそもこの解釈には、小倉弁護士が
異論を挟まれるとは思うけど。
ネットの普及という実情に合わせた法改正は必要だと思うし、パブコメだって出している。国際条約としての、そういう動きでもある WIPO 著作権条約を紹介せずに「ベルヌ条約は古い」なんていうことに疑問を持つことが、そんなにおかしなことかな。ビジネス面の評価でも、現実の数字に基づいていない気がするしね。