mohno

ドメインに関する話題を取り上げます。と思いましたが、まあ色々と。

sinx 氏への返信(3)

先週は、熱にうなされて大変だったのであるが、なんとか落ち着いてきた。そんな中、水曜日の大阪出張に続き、この週末には岡山に出張し、なかなか大変な一週間であった。今は熱も下がり、酷い咳と鼻水に悩まされてはいるものの、この程度は例年の花粉症と同じである。というわけで、sinx 氏への返信がなかなか返せずに申し訳なかった。(以下、例によって「ですます調」)

まあ、sinx 氏が何を考えて信じていようと「何も変わらない」のは確かです。何か変えたいと思ったら、今なら、とりあえず「「知的財産推進計画2007」の見直しに関する意見募集」に意見を送ることをお勧めします。ただし、印象だけで何かを語るというのは、私は好ましいこととは思いませんから、色々調べてかかれることをお勧めします。

さて、sinx 氏の言及は微妙にずれている所と、根本的にずれているところがあります。まずは、前者から。

前にも書いたとおり、私はネットビジネス(あるいは技術)が先行し、法律が追い付かないケースがある、ってことは否定していません。だから、後追いででも法律を整備・対応させていかなきゃいけないケースはもちろんあります。だからパブコメも出しています。しかし、法律が整備されていないことがネットビジネスの“登場”を阻害しているとは言えないでしょう。むしろ登場するからこそ、法律の整備って話が出るんですからね。

そして記事で例示されているのが検索エンジンサーバー。こう書かれていますね、「日本の著作権法ではキャッシュは複製だから「著作権侵害の可能性が高い」、だから「検索サーバを国外に置いている」、と。よく聞く話ですから、うっかりポイントを見逃されているかもしれませんから、もう一回書きますね。
日本だと「著作権侵害の可能性が高い」から「検索サーバを国外に置いている」
なんと、この記事には「サーバーを国外に置けば日本の著作権侵害の可能性を回避できる」という“解決策”が書いてあるんです。食糧自給率が5割を切り、ソフトウェアの多くを海外製に頼る今日、サーバーを国外に置くくらいどうってことはありません。サーバーを国外に置きさえすれば、著作権法の規制を逃れられるのなら、新たなネットビジネスを始める障害なんて何もないんじゃないですか?

というのは、もちろん皮肉です。たぶん中山教授がそう言っているのではなく、岡田記者が勝手に思い込んで付け足したのでしょう。ただ、検索エンジンのキャッシュサーバーを著作権侵害に問うのは、現実にも難しいと思いますね。いや、どこぞの宗教団体が検索エンジンはじめて、公安が何でもかんでも締め上げようとするのならわかりませんが、それだって怪しいものだと思います。何しろ、著作権侵害で罪を問うには、被害者がいて、被害を確定させる必要があるのですから。

たとえば、記事の見出しの著作物性が争われた「YOL 見出し事件」があります。知財高裁で、見出しの著作物性は否定されたものの、見出しのリストには保護すべき財産価値があると認められたケースです。ところが判決文を見ると、認められた賠償金が少ないだけでなく、敗訴した側に負わされた弁護士費用の負担額が極めて小さいんですね(0.05%)。その理由に「読売側が適切な事前交渉の措置を講じなかった」ことが挙げられています。これと同じことを検索エンジンで言われると辛いでしょう。だって、「お前んとこの検索エンジンは、無断でおれのコンテンツを複製している」と事前に連絡したら、間違いなく「robots.txt を置いてくださいな」と言われて万事解決してしまうからです。

国策である日の丸検索エンジンにとっては、こんな泥臭いやり方ではなく、もっとクリーンな法的解決が必要でしょうから、立法措置が必要なのも当然でしょう。もちろん、そのような立法に反対するわけじゃありません。ただ、「検索エンジンが日本の著作権法を避けるために海外にサーバーを置いている」というのは都市伝説だと思いますよ。

ところで、「MicrosoftやAppleのような企業を日本で誕生させやすい著作権法」というのは、さっぱりわかりません。google はコンテンツ企業ではないので、コンテンツの権利が弱い方が助かる面はあるのですが、Microsoft や Apple は自身が売り物としてのソフトウェア(あるいはハードウェアも)扱う企業ですから、コンテンツ保護は重要ですよ。米国に合わせるという話でもなければ、いったいどうしろという主張だと理解すればよいのでしょうか。実際、日米の著作権法の“差”を取り上げているのでないなら、どのように変化させれば「Microsoft や Apple のような企業が日本に誕生する」という根拠は、まったく示されようがないんじゃないでしょうか。それこそ、日本だけ著作権法を超ユルユルにしたことで、ある企業が登場&成長できたとしても、「ベルヌ条約&WIPO条約」に基づく各国の普通の著作権法下では生きていけないことになるんじゃないですか? 前にも書いたとおり、印象論ではなく、なんらかの根拠を示して話してもらえないですかね。

さて、根本的にずれている部分が、この「日本のネットビジネスが成長しないのは……」というところ。いったい、いつ「日本のネットビジネスは成長していない」ことになったんですか?

総務省の資料によれば、日本はブロードバンドの利用料が世界の中でも最も安く、しかも高速です。ついでに言えば、携帯電話については自分で調べたこともありますが、やっぱり日本は安いんです(今は皆、2年縛りの基本料半額という制度を導入しているので、もっと安いでしょうね)。各社が、ただ日本という1国のためにしのぎを削ってくれているおかげで、われわれは世界中がうらやむネット環境&携帯環境を入手できているのです。

また、音楽市場について、米国の RIAA の数字をみると(2006 Year-End Shipment Statistics)、2006年の物理メディアの生産高は90億ドル、デジタル配信は8.78億ドルとなっています。一方、日本の RIAJ の数字(2006年)を見てみると、物理メディアの生産高は4000億円程度と倍以上の差があるのに対し、有料音楽配信は535億円と1.6倍程度しか違いません。当時の為替レートではもう少し差は開くでしょうが、日本では物理メディアよりずっと音楽配信が進んでいるのは間違いありません。誰かが「P2P のおかげで、CD が売れなくなった。音楽産業は大変だ」と言っているのを真に受けてはいけません。日本では「CD が売れなくなった」という分を補う程度に音楽配信は浸透しているのです(成長企業と衰退企業はあるでしょうけど)。

もちろん、これは携帯向けの「着うた」のおかげ。日本の iTunes Store の品ぞろえが悪いのは、iTunes のシェアが低い(5%くらいと言われている)からにすぎません。米国では70%くらいのシェアがあるそうですけどね。スマートフォンでもない一般的な携帯に i-mode のようなインターネット接続機能を持たせ、ビジネス展開まで広げていた日本の携帯市場の勝利、なわけですよ。モバゲーのように広告モデルで運営されているサイトもあれば、いわゆる公式サイトもたくさんあって日本の携帯ビジネスはかなりの市場規模を持っているはずです(数字ないです。すみません)。

動画については、どうでしょう。みんな、YouTube やらニコニコ動画やら著作権侵害に鈍感になる場所にばかり目が行ってしまうようですが、たとえば GyaO。それこそ YouTube が話題になる前から無料動画サービスのパイオニアとして君臨していました。今でもコンテンツがそろっていますから人気は高いのですが、最近では GyaO から抜かれたコンテンツをニコニコ動画で見つけて「何でも見つかるニコ動は便利」なんて実名ブロガーが放言するくらいですから、なかなか辛い立場にあるんじゃないかと推測しますけどね。

でも、放送に比べてはるかにコストがかかるネット上の動画配信で大胆にも広告モデルを導入して、映画まで丸ごと無料でオンデマンドで配信しちゃうなんてサービス、米国じゃ見つからないんじゃないですかね(もちろん違法なものは別)。ニコニコ動画なんてコンテンツ調達費を払わないくせに回線費用の対価を徴収してるってのに、GyaO はまじめにコンテンツを調達した上で、回線費用も払わなくていいんですよ! こんなチャレンジングなサービスまであるのに、何が“阻害”されているんだ、って思いませんか? そうじゃなくたって、ネット上にコンテンツがないとか言っている人は Yahoo! 動画とか goo とか NIFTY とか BIGLOBE とか OCN とか .ANIME とか MTV とかを見て言っているのかと思いますよ。まあ、CinemaNow Japan とか撤退しちゃいましたけどね。

それと世界に通用する企業が登場してこない理由のひとつは、まず起業意欲そのものが低いということなんじゃないですかね。起業意識を調べる Global Entrepreneurship Monitor(いわゆる GEM調査、PDF)というのがあるんですが、起業意欲は2%と参加42国中最下位です(p.37)。その原因が「著作権法」だと思いますか? 私は、まったくナンセンスだと思いますよ。

世界に通用しないというのも、たいていは「言葉の問題」でしょう。IT企業の例としてソフトバンクや楽天を取り上げたのですが、ゲームの世界なら任天堂やソニーが世界を席巻しています。言葉の問題のないゲームなら、世界に通用するハードもソフトもあるんです。それこそ青色ダイオードでも何でも、世界に通じている日本の技術なんていくらでもあると思います。ただ、言葉が関係するものは、なかなか難しいんじゃないでしょうか。たとえば、はてなは、http://www.hatena.com/ なんてサイトを作って海外進出を狙ったみたいですけど、FaceBook だの MySpace だの洗練されたサービスがある中、この程度のものを作ってみた、くらいでは見向きされなくても仕方がない気はします。

まあ、どうしても、「日本のネットビジネスが成長しないのは『』のせいだー!!」の『』に何か入れたいっていうのなら、それは間違いなく『フリーライダー』でしょうね。だって、金を払わないんだから、ビジネス成立しないのは当然ですよね。

posted on 2008年3月23日 22:37 投稿者 mohno

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