「JASRAC との包括契約」、それでも「グレーゾーン」
「
ニコニコ動画、JASRAC曲の演奏動画が投稿可能に」(ITmedia)などで報じられているとおり、ニコニコ動画で JASRACA 管理楽曲を自分で演奏することが合法となった。こういう動きは喜ばしいことで、殿様商売だの何だのと難癖を付けるようなものではないと思う。
1.875%という料率は、もともと規定されていた「
動画投稿サービスの許諾条件」である2%よりは低いものの、「
一般娯楽のストリーミング配信」における使用料が2.5%であることを考えると、かなり高めだと思う。ニコニコ動画のコンテンツ全体から見れば、「自分で JASRAC 楽曲を演奏しているコンテンツ」の割合は、相当低いのではないかと思われるからだ。
一方、支払額を考えてみると、ニコニコ動画の正確な事業収入は不明なのだが、会員数が20万人とすれば有料会員の収入が月額1億、広告収入が3000万くらいあるそうで、ニコニコ市場の売り上げが2億くらいだそうだからアフィリエイト7%くらいと想定して1.6億×12=年間20億くらいだと推測できるから、JASRAC への支払いは4000万円弱。
わけもわからずブックオフが出版団体に支払う1億円よりはるかに少ない。また、JASRAC の平成18年度事業報告書(
PDF)によれば、たとえば、放送等による徴収額は225億円余り。1事業者の支払いとは言え、桁が違うにもほどがあるというくらい違う。JASRAC全体の徴収額は1000億円を超えているから、ニコニコ動画との提携はニュースではあっても、実入りに響く話ではないと思う。おそらく Yahoo! ビデオキャストや eyeVio、YouTube などとの提携が進んだとしても、JASRAC の収益に大きな影響を与えるようなものではないだろう。
ところで、元々設定されている 2.5% という料率は、かなり低い額だと思う。Yahoo! と JASRAC との提携話があったときに調べて驚いたくらいだ。音楽中心だとしても 3.5% なのだが、ぶっちゃけ、JASRAC 管理楽曲をどんなに使っていても事業収入の大半は自分のものにできるという数字である。おそらく、この金額は「実演や制作にかかる費用」と「そこから得られる収入」とが、それほど乖離しないものと想定していたのではないだろうか。実際、テレビドラマとか音楽番組のようなものを考えれば、そこに「楽曲・歌詞使用料」だけで何10%も支払う余地があるとは想像しにくい。アマチュアの動画はそのようなコストがかからない、というだけだ。個人のサイトで年間1万円払えば JASRAC 管理楽曲をストリーミングし放題になる。
現実に JASRAC のビジネスを支えているのは上記の放送とかカラオケとか CD といった“ビッグビジネス”に関わるものだろう(たとえ1軒のカラオケ屋が小規模だとしても)。たとえば、上記の報告によれば放送事業者に対する使用料率は平成24年度まで段階的に引き上げられ続けるそうだ。255億という金額は放送事業収入の1%だそうだから、0.1%増やすだけで25億円の収入増となるわけで、ぶっちゃけ小規模なネット事業者を相手にするより、よっぽど儲かるだろう。
もちろん、「チリも積もれば」という側面はあるにしても、はっきりいって“スモールビジネス”(あるいは非商用)に対して求められているのは、「著作物を使うからには仁義を通せ」という程度の額である。個人の場合には使用楽曲報告が必要だけれど、年間1万円で使い放題であるなら、正確に使用数に比例して分配されるのだとしても、全体に与える影響は微々たるものだ。Yahoo! ビデオキャストに JASRAC 管理楽曲の使用について仔細な説明がないのも、ニコニコ動画で個別の使用曲報告が求められるように見えないのも、「著作物を使うために対価を払う」以上のことを求めても実効性がないと思っているからじゃないだろうか。「危機的状況」と言われている録画録音補償金ですら、10億円程度の規模はある。
今後、動画の埋め込み使用や JASRAC マークの表記などについて正式な規定が公開されるのかどうかわからないが、おそらく「聞かれたら No と答えるしかない」ことでも「聞かれなければ黙認」という対応になるんじゃないかと思う。これは「コンテンツベンダーは宣伝になるからテレビ番組の不正投稿を黙認している」などという「
ユーザー側の身勝手なエクスキューズ」とは違う(実際、動画投稿サイトとの提携に前向きな吉本も角川も、不正な投稿を容認していないと明言している)。JASRAC は自身の管理楽曲でないものまでを「黙認」はしないだろうが(というか JASRAC が黙認したって意味はないが)、管理楽曲については対価の支払いルートが確定したのだから、「めでたい、めでたい」と喜んで、無茶することなく活用すればよいと思う。
データベースもしっかりしているしね。いや、それこそ
JASRAC が提示している注意事項を厳密に解釈したら、音楽の一部だけを使ったり、耳コピの間違いで演奏したりしただけでも同一性保持権を侵害することになりかねない。そして、そんなことまでを誰かが望んでいるとは私には思えない。(川内氏? あれはボタンの掛け違いでしょう^_^;)