音楽税の非現実性とサブスクリプションの現実性
「
「音楽税」計画の詳細―訴えないでやるから金を払え」(TechCrunch)などで取り上げられている Warner の Jim Griffin が提唱した、いわゆる「音楽税」計画について、TechCrunch の記事を含め、まじめに反発している人が多いけれど(
賛成している人もいるようだけれど)、そもそも私には実現可能な話に見えない。TechCrunch が「
音楽税は音楽からイノベーションを奪う」というのは、もっともな話だと思うのだが、むしろ、これに類する話は4年も前に電子フロンティア財団(EFF)からも
提案されている。EFF は間違いなく消費者寄りの団体であると思うのだが、彼らの主張から抜粋してみよう。
Starting with just the 60 million Americans who have been using file-sharing software, $5 a month would net over $3 billion of pure profit annually to the music industry
(ファイル共有ソフトを使ってきた6000万人の米国人から始めるだけでも、毎月5ドル(の支払い)は音楽業界に年間30億ドルの利益をもたらすだろう)
一方の Griffin は「
最大200億ドル規模」と大きく出ているわけだが、この金額を実現するには支払対象者が3.3億人となって米国の人口(約3億人)を超える。米国民だけを対象に計画しているというなら、赤ちゃんもおばあちゃんもいる6人家族に対して毎月$30徴収するということになるが(TechCrunch は、そんなのバカげている、というノリで批判しているのだが)、それはさすがにバカげすぎているので、
2ページ目の後半に書かれている各国への展開も含めた金額として挙げているんじゃないだろうか(各国の所得水準に合わせて徴収額を変える話が書かれている)。あるいは、
ただの計算間違いかもしれないけれど、いずれにせよ Griffin の主張が EFF のそれ(こちらも毎月$5)とあまり違わないように見える。ちなみに、Griffin は「支払いを広告モデルで置き換えることもできる(そうすれば本当にタダだ)」とも言っている。
しかし、EFF の主張と似ているからといって「なんと素晴らしい世界だろう」と楽観できる気はしない。記事では、以下のように書かれている。
Warner's plan would have consumers pay an additional fee—maybe $5 a month—bundled into their monthly internet-access bill in exchange for the right to freely download, upload, copy, and share music without restrictions.
毎月$5支払えば「
自由にアップロードできる権利」が得られる、というのは言い換えると
楽曲を合法的に送信可能化できるということだ(これ以外の解釈があるだろうか?)。もともと送信可能化権は、現在60カ国以上が批准している WIPO 条約で定められているものだが、許可のない送信可能化(アップロード)は違法である。現在、日本で検討されているダウンロード違法化も、「違法に(無許可で)アップロードされた著作物のダウンロード」が違法化されるだけで、合法にアップロードされた著作物のダウンロード(少なくとも保存しない受信)は合法だろう。すると、米国で合法的に送信可能化された著作物を他国でダウンロードすることは違法化できない気がする。少なくとも私的複製が明文化されている日本では現状では何も問題がないし、将来、ダウンロード違法化が実現しても、違法にアップロードされたものでない(許諾がある)以上、取り締まりの対象にならないと思う。日本以外でも、ダウンロード“保存”がアクセスではなく複製だからという理屈は言えるのかもしれないげ、この理屈で保存を抑止することができるかは疑問が残る。ユーザーがアップロードする以上、DRM をかけるなんて話も無理だろう。
※Warner が「アップロードする場所」を提供して、賛同する ISP 以外からのアクセスを遮断する可能性はある。でも、これを厳密にやるなら、それは結局、以下のサブスクリプションサービスになってしまうのではないだろうか。
Griffin は、当然、自由にダウンロードするユーザーからも $5/月を徴収したいと考えているだろうが、米国にあるサイトからどんな楽曲でもダウンロードできる状況が確立してしまえば、他国のユーザー/ISPにとっては、このプログラムに参加する価値はほとんどない。それこそ、J-POP が対象にならないのであれば、日本からの参加意欲は生み出しにくいだろう。本来、かなり広範囲にネゴを進めた上で「せーの」ではじめなきゃいけないシステムなのだと思うのだが、それはやっぱり難しい気がする。このシステムが、うっかり現実のものとなったら、そのあたり、どうするつもりなんだろう。
これと対照的なのが、heatwave さんが取り上げていた「
デンマークのテレコム企業TDCが提供する音楽への無制限アクセス」という件。記事を見る限り、TDC が提供するサービス(PLAY)は「楽曲数の少ない napster」のようなものに見える(PLAY は100万曲、napster の米国版は500万曲)。会員以外がダウンロードすることはできないから、上記のような問題もない。実際、すでに確立している仕組みである。私は支払っている会費ほどに活用しているとはいえない状況なのだけれど、それでもネットで見かけた楽曲をすぐに聴いてみられるというのはすばらしいサービスだと思う。
ここで、唐突に日本の
昨年の有料音楽配信売上実績を見てみよう。サブスクリプション(インターネット)がすべて napster だと仮定すると、4.54億円÷1280円(年会費)÷12ヶ月=会員数は約3万人となる(これが“企業規模”なら、ちょっとヤバいんじゃないかという気がするけれど、桁を間違えてないよね?)ちなみに、
全世界での会員数は76万人である。そこで、会員数100万人規模のプロバイダ(so-net あたり?)が、全会員に向けて napster の機能を提供するよう包括契約を結ぶとしたらどうだろう。楽曲数も「サブセット」だけに限定したり、色々工面することで、1会員あたりの費用を100円/月程度に抑えることができるかもしれない(現実には、そんな単純な話ではないだろうけど)。それでも napster にとってに売り上げは毎月1億円(年間12億円)となる。私は、音楽のサブスクリプションビジネスは、セルビジネスにあまり影響を与えないと思っているので、うまくレコード会社と話を付けられれば、ISP にとって会員集めのプロモーション費用くらいの感覚で、プロバイダとしての月額料金に影響を与えず、楽曲サブスクリプションのサービスを提供できるかもしれない(日本のプロバイダは安いから、そんなコストは払えないかもしれないけれど)。まあ、「着うた」全盛の邦楽には見向きされなければ、あまり“宣伝効果”は生み出せないかもしれないのだけれど(今でも napster における邦楽の品揃えはよくない)。
この仕組みであれば、送信可能化するのは napster(または類する企業)だし、プロバイダの規約に同意した会員しかダウンロードできないわけだから何も問題は起きないだろう。レコード会社が(とくに邦楽の)「サブスクリプションの安売り」を嫌う可能性はあるのだけれど、それこそ世界に類を見ないレンタルCDが、これだけ普及している国なのである。邦楽についても、サブスクリプションに歩みよって、「総額」に注目するように考えれば、けっこう自由度が高く、無料に近い楽曲サブスクリプションは実現できるんじゃないだろうか。
そう思いながら、Griffin の話を読み直してみると、やっぱり無理があるような気がするのである。