mohno

ドメインに関する話題を取り上げます。と思いましたが、まあ色々と。

烏賀陽・オリコン裁判の判決は、読者を馬鹿にしている?

裁判のニュースって、目立つところだけ取り上げているから、それだけで色々語ってしまうと、ポイントがずれちゃったりするわけだ。「「オリコンチャート」記事めぐる訴訟、オリコン勝訴 ジャーナリストに賠償命令」についても、色々コメントしていたわけだけど、津田氏が判決文をアップされていたので、読んだ。

まあ、なんというか、「CD店の具体名や、具体的にランキング操作にかかわった担当者の氏名が書いてないと証拠とするには不十分」であることに文句をつけるってどうなんだろうねって思っていたわけだが(だって、匿名の伝聞に証拠能力があったら、その方が怖いよ)、判決文からは、かなり違う印象を受けた。

問題視されている記事(判決文別紙5の1)を引用する。
「日本には,長くオリコンしかヒットチャートが存在しなかったため,その統計学的な正確さが過大評価されがちです。まず第一に、オリコンは予約枚数もカウントに入れている。予約だけ入れておいて後で解約するカラ予約が入っている可能性が高いのです。『オリコン初登場1位』などという文言は,その後の宣伝に使えます。『オリコンの数字はある程度操作が可能だ』というレコード会社員の話も複数聞いたことがあります。そもそもオリコンは不思議な団体で,『オリコン独自の統計手法だ』と言い張ってその方法をほとんど明らかにしないんですよ。普通の統計調査は,その手法を細かく公開して,その信憑性に疑問が挟む余地がないことを強調するのが当たり前です。それをしないで公開されたデータは,統計学的な信用度が低いと自分で言っているようなものです。」
オリコンは、以下のような事実が摘示されて名誉が棄損されたと訴えたわけだが、
1-1. オリコンは予約枚数もカウントに入れている
1-2. 予約だけ入れておいて後で解約するカラ予約が入っている
2. オリコンの数字はオリコン自身又はレコード会社によってある程度操作が可能である
3. オリコンは統計手法を公開していない不思議な団体である
このうち、1-2.は「可能性が高い」(裁判では事実と認定されているが、文脈から推測表現と思う)、2.は「聞いたことがある」(裁判では事実と認識されているが、伝聞表現と思う)なんじゃないだろうか。実際、別紙3-1でオリコン側が「事実誤認」と挙げているのは、3.と1-1.だけである。推測や伝聞なんて、読者だって推測や伝聞なんだと読むわけだから、問題視するようなことなのか、と思う。

さて、このうち1.1の予約枚数もカウントに入れている(カラ予約でランキングを上げられる)という点だが、にわかには信じがたい。そもそも証言したらしい広野氏が、自分の発言を覆しているようではあるのだが、それこそ、カラ予約でランキングを上げられるなら、AKB48 が“信者”に大量に CD を買わせる必要はないんじゃないの? あれだって露骨な情報操作である(が、ちゃんとお金は支払われている)。いや、実際に購入した後で返品する、という手はあると思うが(未開封CDだったら返品できるはず)、それは購入する側の不正操作であって、集計方法の不正とまでは言えない気がする。日本テレビがビデオリサーチの調査世帯の後をつけたって話も、不正の隙をついたのは日本テレビの問題であって、ビデオリサーチの問題じゃない(と断言してよいのかどうか、ちょっとわからないけれど)。

ついでに言えば、「チャート操作」の証言として挙げられている証拠が「レコード会社が大量のCDを購入していること」となっているのだが、AKB48 のような“信者”ではなく“レコード会社”が大量に購入しているのであれば、そういう意味での「チャート操作が可能」なのは当たり前なんじゃないのか。かつてのベストテンだって、アイドルのコンサートに来た人に葉書を配っていたらしいし、かつてCBCラジオで放送されていた「のりのりだぁー歌謡曲」という10分番組では、数10枚程度の葉書でトップになることができた(←マイナーすぎ?)。いわゆる“組織票”程度のことは、いくらでもありえる。むしろ、オリコン側は「レコード会社は大量購入していない」と言える立場にないのではないか(サウンドスキャンは怪しい数字をはじいているとのことではあるのだが)。

3.の判断にも疑問がある。裁判では「サウンドスキャンとの比較とは認識されない」となっているのだが、そもそもどの程度の統計手法を「公開しているか」は、誰だって調べることができるはずだ。何しろ誰もが調べられるものでないなら「公開」されていないのだから(ちなみに、現在公開されている情報はこちら)。私なら、ここは「現在公開されている情報では、烏賀陽氏は不十分だと思っている」という表現なのだと読み取る。上記の1-2.や2.にも通じるが、裁判は「読者は書かれたものを事実として鵜呑みにするものだ」と言っているようである。東スポは「うちの記事なんて誰も信じてないから名誉毀損にあたらない」と主張したことがあるそうだが、そこまで言わないにしても、サイゾーの読者ってそんなに信じやすい人々なんですか、馬鹿にしてないですか、と思ったりする。

ちなみに、サイゾーに掲載された記事が烏賀陽氏にとって「正確度は半分以下」(であれば、サイゾー側にも責任が)は否定されている。まあ、判決文に書かれているとおりのやり取りだったなら、これは、しかたがないだろう。一方で、もっと気になるのが、オリコン側が J-CASTニュースに対して「多額の賠償を課すことで抑制力を発揮させたい」旨を述べたことを否定していることだ。だが、烏賀陽氏のサイトには、オリコン名義で出されたプレスリリースが公開されており、はっきりと「我々の真意はお金ではありません」と書かれている(これは判決文の別紙3-1-(2),(3)にも記載されている)。名誉毀損による損害賠償請求って、受けた被害をお金で賠償してもらおうというものではないのか? 真意がお金じゃないって明言したら、オリコン側が恫喝訴訟を認めたようなものだと思うのだが、判決では無視されているようだ(なぜ?)。

日ごろのエントリから容易に想像できるとおり、私は「大企業は悪、個人は善」みたいなステレオタイプな考え方が大嫌いだ。だが、この烏賀陽氏の裁判に関して言えば、私は烏賀陽氏を支持する。(誤解のないよう申し添えておくと、この記事に信憑性があると思っているわけではない) まあ、烏賀陽氏(というか弁護側)が、証拠能力のなさそうなものを証拠として挙げているというアプローチには大いに疑問を感じるわけだが(烏賀陽氏はともかく、弁護士はプロじゃないの?)、ハッキリ言って大企業による個人への訴訟は厳しいものだからね。「おめー、提出した証拠無視すんなよ」と何度思ったことか。

というわけで、後日、カンパでもしてよう、と思うのであった。

※2008.5.1追記。
本文に書いたとおり、匿名の証言を証拠として認めろなんていう主張が受け入れられるとは思えないし、そうあるべきだとも考えない。誰に笑われようと、この考えを変えるつもりはない。さらにいえば、記事の信憑性にも疑問を感じるわけではあるが、それでも「烏賀陽氏を支持する」と書いたのは、やはり大企業があからさまに恫喝訴訟をしているように見えるからだ。

ところで、先日、「費用負担割合5/6で「オリコン勝訴」って、そりゃないよ。」というブログのエントリを見かけた。はてブでコメントしたとおり、「YOL/ライントピックスの知財高裁判決は、負けたライントピックスへの訴訟費用の請求は1万分の5」という例はあって、この判決文では「裁判所の判断としては控訴人(YOL側)の勝訴とするけど、いきなり裁判するんじゃなくて最初にライントピックスに連絡すればよかった話じゃないの?」という注釈がついている。

オリコン裁判の判決文には、そのようなコメントは書かれていない。むしろ、最初にニュースになったときにナガブロさんが「オリコン名誉毀損事件について考える」というエントリで、
(まともに対抗したら)事実関係について知らないのでなんともいえないわけですが、5000万円という法外な請求は認められないにしても、いささか勝ち目は薄いということになりそうです。
と書かれた、まさにそのままの結果になったわけである。しかし、この訴訟費用分担を見ると、「裁判所の判断は当然原告を勝訴させるしかない」のだけれど「この程度のコメントで個人に5000万はやりすぎ」という判断が働いたのだろうか、という気がしないでもない。そう思うと、けっこう妥当な判決だったのかな、と思えてくるのであった。

posted on 2008年4月24日 3:05 投稿者 mohno

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