mohno

ドメインに関する話題を取り上げます。と思いましたが、まあ色々と。

補償金問題を考えてみる

たいそう評判の悪い私的録音録画補償金であるけれど、私も筋の悪い仕組みだと思う。だから、賛成・反対を問われたら反対という立場であり、それは「iPod(音楽プレーヤー)への課金反対」だけではなく「補償金」という制度そのものに反対していると答えるわけだが、いわゆる“世間”の反対の声には、疑問に思うものも多い

たとえば、「私の iPod に入っている音楽は CC ライセンスのものだけ」という主張は、「私は NHK は見ていない」といって NHK 受信料の支払いを拒否するような理屈だから、まあ通らないだろう。たしかに、ニセモノの良心で孝好氏が指摘する通り著作権法104条の4第2項には、
前項の規定により私的録音録画補償金を支払つた者は、指定管理団体に対し、その支払に係る特定機器又は特定記録媒体を専ら私的録音及び私的録画以外の用に供することを証明して、当該私的録音録画補償金の返還を請求することができる。
とあり、この規定にしたがって払い戻された実績もあるのだが(DVD-R 4枚分で8円)、当時も DVD-RW のような書き換えメディアでは証明は難しいといわれていた。当然、iPod での証明も難しいだろう。あえて挙げるなら、補償金の支払い対象は(デジタルな)“私的複製”に課せられているものだから、iPod に入っている楽曲はすべで iTS で購入したものである(=“複製”ではない)という購入履歴を提示するくらいだろうが、それでも“証明”とは言い難い。

あるいは、Apple 自身が iTunes と MusicID のような仕掛けと連動して「商用楽曲を複製しないバージョンの iPod」を作り出すことだって今日の技術ならば可能かもしれない。このバージョンの iPod なら補償金(たぶん数百円)を求められないとして、ぶっちゃけ、これが欲しいって人はどれくらいいるんだろうね。

ところで、私は、NHK 受信料そのものにも問題を感じている。年間で高々10億程度の録音補償金や録画補償金の規模に比べると、受信料の総額は年間6000億円にも上る。現実に、私はサッカーもオリンピックも大河ドラマも含め NHK なんてほとんど見ないのだが(最近は地震速報すら見ない)、それでも年間1万何千円かを放送法によって支払わされているのである。補償金問題で騒いでいる人は、ぜひ NHK 受信料こそ問題にしてほしいと思うのだが、ようするに補償金が「音楽税」のようなものであり、NHK 受信料が「受信税」であると考えれば、「使わないサービスのために支払いが生じている」ケースはあるのだ。たとえば、市民プールを使う人が市民の1%くらいしかいなくても、その運営には市民の税金が使われる。「市民プールなんて金輪際使わないから、その分税金をまけろ」と言っても通じない。別に“税金”に限らない。仕事が忙しくって会社の福利厚生サービスを利用しているひまがないからといって、その分の負担を減らしてもらえるわけではない。

もともと何が公平かというのは、何を基準にするかで変わってしまうものであって、NHK の場合、(PPV のように)「見る分に比例して支払う」ではなく「見る見ないにかかわらず支払う」という基準を採用しているというだけだ。その意味で、上記の補償金の返還請求規定は必要なかったんじゃないかとも思うのだが、おそらく「私的複製しない媒体からも補償金をとるのはおかしい」という声を抑えきれなかったのだろう。現実に請求や返金にかかるコストを考えれば、この規定は「言い訳」以外、何の役にも立っていない。

「iPod から徴収することになったら、他のものにもどんどん広がってしまう」というのも、支払いの“広がり”だけを懸念してもしかたがないと思う。もともとデジタル複製の“見返り”として補償金の支払いが定められたのに、その複製先の多様化に制度が追い付いていないという主張はもっともなものであり、音楽プレーヤーは、いわば抜け穴になってしまったのだから、これを対象にしたいと考えるのは、補償金の経緯を考えるとさほど不思議なことではない。それに2000年には40億円ほどあったという録音補償金が今や10億円程度になっているのは「音楽産業が衰退している」からではない。(少なくとも日本の音楽産業は衰退していない) そもそも「払いたくない」というのは(誰もが思うことなので、とてもわかりやすいけれど)理由として挙げるようなものではない。税金なんて“いやいや徴収されるもの”である(真面目な話、メディアが“増税反対が大衆の声”とか書いているのを見るとアホかと思う)。

もちろん、権利者側は、音楽プレーヤーとして使える携帯電話も対象にしたいと思っているだろう(これは、かなり大きな市場になりそうだ)(※末尾に追記あり)。それこそ、ウォークマン携帯とか将来登場するかもしれない iPhone とか、音楽プレーヤーとして使うことを明確に意図したものを「携帯電話でないもの」と区別するのもおかしい気がする。一応、「PC と違って携帯で聞く音楽は、着うたのように正規購入されているケースが多い」という推測はあるだろうと書いておく。

「DRM を採用するなら補償金をなくせ」とか「補償金をとりたいなら DRM を廃止しろ」というように、マクロ的に DRM と補償金を二律背反で考えることもおかしい。DRM で複製が禁止されているなら、そもそも複製できないのだから補償金が徴収されることはない。つまり、コンテンツごとに考えれば、DRM がかかっているものについて補償金が徴収されることはないし、補償金を払っているものは DRM がかかっていないからデジタルに複製しているのだ(もちろん、DRM を外して複製した場合に「補償金を取られたくないんだ」と言っても、誰も耳を貸さないだろう)。“どっちかにしろ”という主張は、ビジネスモデルの多様化を否定しかねない。もちろん、個人的には補償金も DRM も廃止してほしいのだけれどね。

「支払いの配分が不透明」であることを拒否理由にするのもどうかと思う。たとえば、録音補償金については SARAH のサイトに支払いの内訳はきっちり書かれている。「補償金のうち20%以内の手数料を控除した金額」の20%が共通目的基金に振り分けられ(その内訳も書かれている)、残りを JASRAC(36%)、芸団協(32%)、RIAJ(32%)で分けることになっている。これらの団体に分配された先には、たしかに不透明な部分はあるかもしれないが、SARAH が請け負っている部分について、それほど不透明性はないと思う。そして、「JASRAC の配分には不透明なところがあるから JASRAC への支払いは嫌だ」というのは理にかなっていない。まあ、現実にそういう意見も多々あるわけだけど、それって「支払うのが嫌」の理由を後付けしているように見える。本来、配分の不透明性で文句をつけるのは、会員の側だろう。「会員は権利を握られているから大きな声を出せない」というのが事実だとしても、それはやはり会員の側で声を上げてもらわねばならないと思う(必要なら、だけど)。

そして、JASRAC の支払い配分については、最近、興味深い記事があった。「JASRAC独占、なぜ崩れないのか――JRCの荒川社長に聞く」(ITmedia)というJRCの荒川祐二社長へのインタビューによれば、JRC に信託できる支分権が録音権とインタラクティブ配信権だけである理由は、
数えることができ、適正な分配ができる、という確証が立たない分野は、当社は参入すべきではないと考えてきた。
だそうである。この記事は、取材した岡田記者が拍子ぬけしたんじゃないかと思うような冷静なインタビューなのだけれど、この発言は、録音権とインタラクティブ配信権以外の権利は数えることが難しい、つまり透明性を確保しにくい権利であると JASRAC と競合する著作権管理団体が認めたようなものじゃないだろうか。公正取引委員会に問題視された JASRAC と放送局との包括契約も、本来、メリットを得ているのは放送局側だ。JASRAC としては使用楽曲の全曲報告を受けて、きっちり比率を配分できるのなら、それを否定することはないだろう(それでも、データベースに登録されていない楽曲をどうするか、ということはあるだろうけど)。

とまあ、「どこが反対の立場なのかわからん」と言われそうな説明を長々書いてみたわけだが、なぜ反対なのかというと、やはりそれは「実効性が乏しい」と思うからだ。ほとんど無意味に作られたかつての農道空港ではないが、補償金というからには著作権者(または隣接権者)への分配が「補償として意味を持つ金額」であるべきと思う。しかし、これがなかなか疑わしい。録音補償金については上記のとおり、JASRAC に36%、芸団協に32%、RIAJ に32%分配されるのだが、40億円の補償金があった時代に手数料をゼロと想定しても、JASRACへの支払いは40億円×80%×36%=11億円強。JASRAC のビジネス規模は1000億円程度だから、1%にすぎない。補償金が減った現在では0.3%程度だろう。RIAJ についても音楽ソフトの売り上げ規模は4000億円程度で、補償金など微々たる額である。

ちなみに、芸団協の分については、ビジネス規模がわからないと思っていたのだが、以前、佐々木康彦氏に「補償金は音演奏家権利処理合同機構(MPN)の登録者約4,500人で分配する」と教えていただいた。芸団協傘下の実演家は95,000人となっているので、この違いがどこからくるのかはよくわからないのだが、佐々木氏の言に従えば、一人あたりの平均額は40億円×80%×32%÷4,500=約22万円となるので、たしかに「無視できるほどの金額」とまでは言えない(それでも、そこまで深刻な額かという気はしないでもないが)。

とはいえ、実演家に配分される11億円(40億円の場合)も、RIAJ などのビジネス規模を考えたら、十分吸収できる金額なのではないか。着うたに代表されるデジタル音楽配信は昨年750億円規模にまで成長しているのだが、この成長に対して実演家が恩恵を受けていないという話も聞いた(そこに“補償金”が持ち出されているのだとも)。また、ここではおもに録音補償金について述べたが、録画補償金については、さらにビジネス規模と補償金には違いがある。テレビの事業収入は民放だけで2兆円くらいだが、補償金の総額はその1000分の1である。録画補償金の分配先はテレビ局だけではないから、実際の分配額はさらに少なくなる。“中の人”にまで「こんな金額いらん」と言われる始末である。

もし、補償金撤廃によって実演家の収入にのみ有意の問題が生じるのであれば、そこは補償金以外の方法(音楽配信ビジネスの成長にともなう分配金の支払いなど)でまかなえるのではないだろうか。補償金に関して色々宣伝活動するより、そこで話をつけてしまう方が手っ取り早いし、消費者の理解も得やすいはずだ。実演家の方々も、年々単価の安くなる媒体をベースにした補償金に頼るより、市長市場であるデジタル音楽配信に目を向けて正当な対価を要求するように活動してはどうだろうか。まあ、相手が利害関係のあるレコード会社だと、いろいろやりにくいとか、しがらみはあるだろうと思うけれど、そういう活動こそ“世間”の理解なり支持が得られると思うのである。

※追記。著作権法第30条2項には、「録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く」とある。携帯やパソコンを対象にするためには、この部分も改正しなければならないのだろう。まあ、ウォークマン携帯や iPhone が「電話機能付きの録音録画機器」と言われる可能性がゼロではないかもしれないけれどね。

posted on 2008年5月13日 1:55 投稿者 mohno

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