mohno

ドメインに関する話題を取り上げます。と思いましたが、まあ色々と。

著作権者に利益を還元すること

アーカムブックスという漫画の中古販売の社長(畠中英秋氏)が「中古本の利益をアーティスト、著作権者に還元する」という姿勢を表明している。「利益をアーティストに還元する」っていうだけで嬉々として思考停止してしまう人もいるようだけれど、普通は「どうやって?」「いくら?」と思うところだろう。という話をはてブにコメントしていたら、「著作権者に利益を還元すること~みなさんの意見、ブロガー編~」というエントリが書かれていた。そこには「広く意見を求める事で自分が考えてなかった問題や疑問もでてきました」とも書かれているのだけど、「それくらい考えておけよ」と思うような話もある。(まあ、こうやって素直に書いているのだから、叩くような話でもないだろうけれど)

詳細は、リンク先のエントリを見ていただくとして、まず気になったのは「還元する相手をどのように特定し、分配するか?」というところ。グーグルのブック検索もそうなのだけれど、書籍はもともと JASRAC のように集中管理するような仕組みを持っていない。だから、一括してどこかに支払って勝手に分配してもらうという仕組みがない。グーグルの場合、そういうものを管理するための版権レジストリを新たに構築する資金(3400万ドル)を提供したわけだ。それでアーカムさんはいかほどご用意されている……というようなイジワルは置いておくとして、まあ、版権レジストリは非独占的な仕組みだから、交渉次第では第三者が独自目的で使えるようになるかもしれない、というところか。そうなると版権レジストリが使えなかったら、フリダシに戻ってしまうけれど。もっとも版権レジストリの“精度”については、私は大きな疑問を持っている。そういえば、かつてブックオフが1億円を著作権団体に払うというニュースがあり、このときも「どうやって分配するんだろう」とは思ったものだ(著作権団体の職員が飲んでおしまいかもね)。

そして、もう一つ気になるのが金額。ここで、ビートたけしこと北野監督の小話をひとつ。
あんたの映画はいい映画だ、ぜひインドでも上映したいって、話を持ってくるんだよ。じゃあ、契約金いくらだ、って聞くと、2万円だっていうの。(笑)
この話、別の映画をネタに2回聞いたことがあるのでよく覚えている。巷では「利益還元」というところにばかり注目する人がいて辟易とするのだけれど、それが有意の収入になるのかどうかは重要な基準になるだろうし、そういうことを無視して議論しても話は進まない。さて、畠中氏のブログでは、次のように書かれている。
還元する金額の過多も権利者によっては100万、200万円といった単位で還元する権利者もいれば、何年たっても数千円しかたまらない作品もあるはずです
還元率は販売額の1%程度からスタートと言われているのだから、200万円を還元するためには、その作者だけで2億円の売り上げが想定されるということだ。古い漫画を200円で売ったとして、100万部。世の中には、シリーズで100巻を超えるような漫画もあるから可能性がゼロではないのかもしれないが、ちょっと想像しがたい金額というのが正直なところである。それに、それほど流通しているような漫画なら、もうバリバリ印税生活していて、“たかが200万”の収入増に魅力を感じたりするだろうか、とも思う。私的録音録画補償金制度で、テレビ局はいくらかの補償金収入を得るそうだが、本業に比べると千分の一とか、一万分の一という誤差のような金額らしい(とある地方局の人)。ちなみに、その人によれば、「こんな金額いらん」そうだ。

ここで思い出したのが lala.com である。lala.com は、かつて CD 交換サービスを行っていたのだが、このときの手数料が1ドル。そして彼らは「アーティストに対して、収入の20%を還元する」と宣言した。もともと、CD 交換は合法なのだし、特別アーティストに還元しなければいけない理由はないはずなのだが、そうはいっても通常はアーティスト/レコード会社の利益にならないビジネスだから、少しでも「いい話」をアピールしておきたかったのだろうと思う。なお、このときに著者への支払いデータベースを作ろうとしたのが Z Foundation。これも自己申告制。「わたし、マライア・キャリーで~す」と申請したら、どう対応してくれたかは興味深いが、やってない(どっちにしろレコード会社を差し置いて申請するアーティストがいたとは思えない)。

ちなみに、20% っていい比率じゃないか、と思ったあなた、算数のやり直しです。何しろ1件の手数料収入は$1だから20%というのは20セントにすぎない。チリも積もれば山、というのが、大衆向けの著作権ビジネスだけれど、なにしろ当時の lala.com は活発な取引が行われているようには見えなかった。ほどなくして、この宣言も Z Foundation も消えてしまったのだが、アーカムの利益還元についても、現行のビジネス規模で、いったい、どの程度の著者が、どの程度の収入を得られるようになるのか、シミュレーションされているのであれば知りたいところである。

いずれにせよ、もう少し具体的に考えて話を進めるようにならないと、まともに相手にされないような気はする。(いや、飲み代が増えるかもしれない著作権団体は喜ぶかもしれないけれどね)

※2009.5.20、追記。
よく知らないけど、権利者団体が「金払えよ」と言っていることに応えた仕組みづくりなのであれば、「分配の仕組み」に責任を負うのは権利者団体かもしれない。結局、ブックオフのお金は支払われたのか、どうなったのかご存じの人います?

※2009.5.20、もうひとつ追記。
万来堂さんのエントリで気づきましたが、書籍の場合に「著作権団体」という表現はおかしいかもしれないですね。JASRAC のような権利集約を行っているわけではないので、作家協会とか、出版社協会と書くべきかもしれません。ブックオフの件は、報道では「著作者団体」と表記されているようです。

※2009.5.20、どうでもいい追記。
関係ないけど、畠中氏の略歴にビレッジバンガードが出てくるのはなぜだろう。お世話になってます>VV

posted on 2009年5月20日 0:32 投稿者 mohno

# 誰に利益を還元するか @ 2009年5月23日 2:34

前エントリに対して、畠中氏がまとめエントリを書かれている。例によって“難癖つけやがって”というレス・・・になっていないことを意外に感じる私はひねくれ者?閑話休題。金額の問題はいかんともしがたいと思う。古本という性質上、元の値段よりずっと安い値段で売買される上に、還元率(印税率)も低いだろうし、さらに元の印刷部数よりずっと少ない取引しかないのであれば、その総額が元の収入と比べものにならないほど少ない金額にしかならないのは当然だからだ。そして、その上に支払いの分配という問題も絡んでくるわけで、ぶっちゃけ現実味はあまりないと思う。そこで、畠中氏の“気持ち”を活かすにはどうするとよいかを考えてみた。結論を言うと、作者に直接還元するのは諦めて、漫画家の卵を育てるとか、ネットで共有できる漫画やオリジナルアニメを制作するという方向に投資してもらうというのはどうだろう。どれも具体的な方策まで考えているわけではないが、たとえば新人漫画家向けの奨学金みたいなものを創設してはどうだろう(奨学金を与えたくなるほど有望な新人であれば、すぐ自分で稼げるようになるはず、というツッコミはありそうだが)。あるいは、ニセモノの良心というブログ主の孝好氏が、「アニメの次の担い手?」というエントリを書かれていたのだが、それこそ最初からネット共有を前提にしたアニメを作ってしまうということも考えられる。還元しようという利益を多数の作家に分散させてしまうと、ちょっとした“山”でも“チリ”になってしまう。むしろある程度“山”になったままお金を使うことを考えるということだが、いかがだろう...

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