「ウェブ魚拓」はオプトアウトで正当化されるか
小倉秀夫弁護士が「
ウェブ魚拓」の合法性について
疑問視されている。まあ、疑問視されるのは仕方がないと思うようなサービスだ。少なくともエントリに書かれている通り、「
怒りの矛先が魚拓者に向かうようにする」ことは重要なことだろう。だが、
はてブで指摘されているような「オプトアウト」を用意することは、むしろウェブ魚拓を正当化しにくくなるように思う。その点は後述するとして、ちょっと長い余談から入る。
そもそも、ある行為(活動)が正当なものか、不当なものかを見極めることは難しい(ことがある)。少なくとも「形式」だけで判断できない場合がある。爆発物を製造するという“行為”は、目的がトンネル工事であれば正当だが、大学や空港を爆破するためであれば不当である。もちろん刑事的にも、前者は処罰されず、後者はされる。行為の“形式”だけでなく“目的”が判断材料になるのだ。
では、「工事のために使ってください」といってダイナマイトを製造して配布する行為はどうだろう。受け取った人が、テッド・カジンスキーよろしく大学や空港を爆破するかどうかはともかく配布の“名目”は「工事」であるから合法とすべき、だろうか。受け取った人が大学や空港を爆破してばかりいるのに、相変わらず「大学や空港を爆破してはいけません。工事のために使ってください」と言い続けてダイナマイトを配布しつづけたら、それでも合法とすべきだろうか。たとえ、ダイナマイトの製造者が本当に「工事のため」に配布していたのだとしても、おそらくこうした行為は禁止されるだろう。
世の中の多くの活動は、バランスの上に成り立っている。
不当な利用が増えれば、たとえ正当な利用法が存在したとしても、制限されてしまうものだ。たとえば、マジコンが「早熟の天才」を生み出す基盤になるのだとしても、現実に不正コピーを助長することばかりに使われていたら、抑止されてるのは仕方がない(私は、それは立法によってなされると思っていたけれどね)。マナーのよい喫煙者が多いとしても、マナーの悪い喫煙者が目に余れば、路上喫煙の禁止というルールができてしまう。怨むなら非喫煙者ではなく、マナーの悪い喫煙者を怨むべきだ。
さて、本題に戻る。
少し前に書いたことだが、実のところ「ウェブ魚拓」のような仕組みは欲しいと思っていたサービスである。ないなら、自分で作ってみようと思って iSnap.com というドメインまで持っている:-) ちなみに、このときは「キャッシュ」なんて書いているけれど、キャッシュは「オリジナルへのアクセス頻度を減らすための技術的手段」であるから、ちょっと違う。ともあれ、印刷物の出版(publish)と違い、Web への発行(publish)は、容易に変更されてしまう。いとも簡単に証拠を隠滅できてしまうのだ。かつてオルタナティブブログで「
検証性のための複製」というエントリを書いたように、「無断での複製」にも正当な理由を考えることはできる。実際、「報道」という目的のためなら、無断の複製であっても合法化できる(場合がある)はずだ。そして、そのような“例外措置”はメディア企業だけの特権ではなく、個人に対しても認められるべきだ。それこそが「Web の時代」だろう。
その意味で、(小倉氏と違って)「
ウェブ魚拓の考え方」には賛同できる。むしろ、かつては「言われたら削除」と明言していたように記憶しているので、「言われても削除しない」のだとしたら、方針転換したのではないだろうか? もともと Web にあるものを「複製」することは、オリジナルが残っているようなものなら、さほど問題はないはずだ。ウェブ魚拓はアフィリエイトリンクなどもそのまま保存するはずだし、オリジナルが残っている限りにおいては動作はキャッシュと変わらない。だから「ウェブ魚拓」の目的は「改変される前」の状態を残すことであり、それはまさに“報道”という目的に合致するのではないか。であれば「オプトアウト」(言われたら削除)を受け入れないことの方が、“報道”という(正当な)目的を示しやすいのではないか。もちろん、時期遅れのアフィリエイトなんて意味がない、と言われる可能性はあるが、それは「選撮見録における録画再生分のCM広告料」なんて
持ち出す人に言われることではないだろう。あるいは、魚拓する理由が一定期間で消えてしまう商用メディアの記事を「残しておくためだけ」だとしたら、報道という目的としては認められないと思う。
とはいえ、「ウェブ魚拓」は、あまりバランスが保たれている状態には見えない。もともと著作物を公衆からアクセスできるように複製するわけだから、私的複製にもあたらないし、小倉氏の言うとおり送信可能化権の侵害だと言われたら、これに対抗しなければならない。しかし、何しろ魚拓の取得は(アカウントなしで)誰でもできることだし、その責任を問われたら、魚拓運営者が負わざるをえない。今のような匿名では、魚拓者が責任を負いようがないし、その魚拓がどの記事で利用されているかも(リファラでも分析しなければ)わからない。メディアの場合でも、記事に署名がなければ編集部なり、新聞社がその責を負うものだから、実際に責任を魚拓運営者が負うことになったら大変だろう(裁判になれば、勝てるかどうかとは別に大変だろうけど)。実際、私も CC の付いている記事でもなければ、魚拓を使うのは抵抗を感じる。だが、魚拓があるおかげで、
このエントリのコメント欄にあるTさんやOさんが誰だったのかという
記録を確認できたりもするわけだ。
ちなみに、部分引用では証拠能力に乏しい可能性もある。たとえば、
○○氏が犯罪行為を犯した証拠を持っている。
と言われた○○氏が名誉棄損の証拠として、この部分だけを記録した場合、魚拓されていない前後を書き換えて、
誰から聞いたか覚えていないが、「○○氏が犯罪行為を犯した証拠を持っている。」という人がいたようだ。
と修正されたら(あるいは、もっと曖昧な表現とか)、名誉棄損を問いにくくなるのではないか。あるいは、Web サイトを運営する側は細工もできる。かつて録画ネットのようなサービスを提供していた「J Network Services」は、日本の IP からアクセスした場合だけトップページを変更していた。技術的には ウェブ魚拓の IP だけブロックするのは容易だから、常に証拠を残せるわけでもない。できれば、ブラウザを通じてクライアント側で改変不能なファイルとして保存できるようにする仕組みがあればと思う。そして、このようなサービスを維持するために必要なことは、「皆が悪用しないこと」に尽きるのではないだろうか。