mohno

ドメインに関する話題を取り上げます。と思いましたが、まあ色々と。

スリーストライクが嫌なら、ワンストライクでアウトにすればいいじゃないの

フランスで承認された「スリーストライク法(HADOPI法)」の対象は“違法ダウンロード”ではなくて“ファイル共有”ではないかと思っていたが、そうではなかったようだ。ITmedia の記事にも「違法ダウンロード」と書かれているが、海外のニュースでも "illegal download" という記載がある。

閑話休題。

先日、JASRACの菅原瑞夫常務理事が「日本でもスリーストライク法の導入を検討すべき」という話をしたようだ。heatwave さんが「日本版スリーストライク法に断固反対する」というエントリで、詳細な批判をしている。また、小倉秀夫弁護士は「スリーストライク法導入を検討するよりアップローダー対策した方が効率的では?」というエントリで立法上の疑問点を示されている。結局、ひとつもパブコメを書かなかった上に、なんだか年末まで忙しい中、こんなことを書いていていいのかわからないけれど、少しコメントしてみる。

MIAU が実施した衆議員立候補者に対する「インターネットユーザーからの10の質問」の回答を見ると、政党を問わずほとんどの立候補者が、権利者保護を重視している。それだけ権利侵害が顕著であると認識されているのである。これを踏まえると、「日本にもスリーストライク法を」という話を真に受けて成立されてしまうおそれはある(なにしろ現政権では何が起きても不思議はない)。とはいえ、著作権保護期間延長に関する首相のリップサービスが(今のところ)そのまま延長を成立させているわけではないし、それ以上に色々とハードルの高そうなスリーストライク法が日本で成立する可能性はあんまりないと思っている。それはもちろん反対の声を上げる必要はない、ということではないけれど。

私も、スリーストライク法が決してよい対策だとは思わない。思わないのだけれど「断固反対」というほど反対する気もしない。かつて外国人登録証に要求された“指紋押捺”は「日本固有の人権侵害制度だ」と批判されて廃止された。ところが、米国では例の911事件以来、外国人に対する取り締まりが厳しくなり、今やちょっとした旅行ですら入国時に指紋を取られる。アメリカに対して「指紋押捺は人権侵害だ」と訴えてみても、実際にテロが起きて何千人もの人命が奪われたという事情を無視してはくれないだろう。むしろ先日のテロ未遂により、空港ではボディチェックまで行われているようだ。要はバランスの問題なのである。「交通事故が増えれば道交法は改正される」(池尾和人氏)のである。

むしろ気になるのは、小倉氏が指摘する通り「どう運用するつもりなのか」という点である。そこは「実際にスリーストライク法を導入したフランスの真似をすればよいじゃないか」という考え方もあるとは思うのだが、本来、ネット上で起きている問題は著作権侵害ばかりではない。たとえば、小倉氏がしばしば取り上げる誹謗中傷やら、時折流れる風説の流布のような問題を放置したまま、著作権侵害だけ取り締まろうというのであれば、それもまたバランスが悪いように思う。そして、プロバイダ(ISP)から見れば、たとえ著作権侵害や誹謗中傷があろうとも、「顧客のプライバシーを守る」というお題目のもとで、できるだけ情報提供しない方が顧客を維持できるのなら、積極的な協力は得られないのではないだろうか。

実際、現行のプロバイダ責任制限法は、プロバイダにとって極めて緩やかに運用されているようだ。小倉氏のエントリ(最後の段落)やつぶやきにはにわかに信じがたいプロバイダの対応が紹介されている。プロバイダ責任制限法では、会員の不正行為に対して情報提供を求められた場合に、プロバイダから会員に情報提供の可否を確認することになっている。会員から拒否された場合はプロバイダが判断するのだが、これほどまで頑なに情報提供を拒むようでは、不正が蔓延する片棒をかついでいると言われても仕方がないだろう。

そこで、匿名の陰に隠れてデマを流す者、違法にファイル共有する者、他人を誹謗中傷する者について、プロバイダが情報提供を拒むのであれば、その際には免責せず、その者に代わって プロバイダの責任を問うことにしてはどうだろうか。そのように運用しても、プロバイダ責任制限法の役割は変わらない。情報を提供するかどうかをプロバイダ自らが判断する際に、提供しない方が顧客に逃げないと思えば拒否したくなるだろうが、「会員の行為に対する連帯責任」が負わされるのであれば、「違法性が疑わしい」場合には進んで情報を提供するようになるのではないか。そもそも、たいていのプロバイダの利用規約には「不正な目的で使用したら契約を解除する」という規定があるものだが、規約を改正すれば消費者金融のように業者間で「ブラックリスト」を共有できるようになるかもしれない。不正使用者がプロバイダにとって“迷惑な存在”となれば、プロバイダは使用契約を結びたがらないだろう。すごいぞ、これでワンストライクでアウトになる日も近い!!(←かなり嘘)。まあ、その場合でも、月額料金が高額な(かつ、いつまで営業するかわからないような)プロバイダが登場する可能性はあるけれど。

うまくいけば:-p、プロバイダが不正ユーザーを排除するためにネットを監視して、そうした Winny で流れているデータを抑止するようになるかもしれない。やったねパパ、明日はホームランだ! いやいや、以前にもそうした取り組みはあったが、「通信の秘密」に抵触する(可能性がある)と指摘されたことがある。でも、「通信の秘密」とは何だろうか。メールを誰かに出すのなら、宛先以外の誰にも知られないというのは「通信の秘密」であろう。一方、Web サイトで情報を公開するのであれば、それは「世界中の誰でもが見られる状態に置く」のだから、どこに守るべき「通信の秘密」があるのだろうか。Winny は P2P(peer to peer)という技術を使っているのだから、特定の相手に対する通信であり、その秘密は守られるべき……という理屈は成り立たないだろう。なぜなら、不特定の誰もが Winny というツールを使うことで、Winny ネットワークに参加できるからだ。情報を発する先を「発信者が指定した特定の者だけが参照できる環境」に限定しないなら、そこに「通信の秘密」は必要ないのではないか。現に、高木浩光氏が「公開されている Winny ネットワーク」を視覚化する Nyzilla というツールを発表されている。ブログや掲示板にコメントを書く、twitter でつぶやく、無許諾でコンテンツを公開するというのは、すべて「公衆への発信」に他ならない。

プライバシー保護という点で、(通信内容ではなく)発信者の秘密を守るべき状況はあるだろう。しかし、新聞の投書欄が原則実名であり、事情があって匿名にする場合には、その判断は新聞社が行う(掲載の責任は新聞社が負う)。「公衆への発信」について、発信者の匿名性を保護したいのであれば、保護しようとする人や組織が責任を代替するべきである。そうでなければ責任を負う存在が消えてしまうからだ。

もちろん、懸念がないわけではない。セキュリティの緩い、あるいはかけられていない無線LANが勝手に使われた不正行為はどうするのか。それは「盗まれた車で起こされた事故」と同じように扱い、「鍵をかけていない方が悪い」という認識を広める以外ないだろう。ネットカフェは、利用者確認をしっかりするようになるだろう。FON は……知らんけど、あれはそもそもプロバイダと利用契約を結ぶのが前提だから、まずは、そこが問題になるかもしれないね。

これなら、プロバイダ責任制限法の運用を少しばかり厳しくするだけだ。たいした手間はかからないし、共通ID制を作る必要もない:-D

さて、安心する未来を空想できたところで、パンがないからケーキでも食おう:-p

posted on 2009年12月30日 1:46 投稿者 mohno

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